「……また、明日」
「じゃあな」
アーケードの向こうに駅が見えてきた。美里は電車通学のため、いつもここで別れることにしている。小さな鉢植入りの紙袋を抱えた彼女と、軽くさよならを交わす。
が、二、三歩歩き出したところで、彼女は振り返り、そして俺のそばまでやってきた。そしてにらむように俺の顔を見つめてくる。何だ、あんまり見られると、少しあれだ。
そしてゆっくりと口を開く。
「……私って意外と面食いだったんだな」
「は?」
「何でもない。忘れてくれ」
ここは笑うところなんだろうか? そんな風に悩んでいると彼女は、
「今日は楽しかった。ありがとう」
そういってきた。少しだけ笑っていた。
その笑顔を見て、俺は不意に思ったことを口にしていた。らしくないけど、たぶん今日はそういう気分だったんだろう。
「なあ」
「何?」
「明日から、一緒に学校行かないか?」
すると、彼女は大きく目を見開く。鳩が何かをくらった顔、ってやつだ。
やけに長いこと考えた末、
「その、何だ。明日は部室に忘れ物したから、いつもより早く学校へ行くぞ。だから、ここはキリよくお互いのスケジュールと待ち合わせ場所を詳細に決めてから───」
「いいよ。少し早く行けば、知り合いとかにも見られないだろう」
「……」
気になるのは、その部分なのだろう。やはり長考。まったくの無表情である。おそらくは照れている。彼女が照れているときは、完全に表情がなくなるので面白い。普通の人には、怒っているようにしか思われないのだが。
やがて。
「……45分。駅前」
小さく呟いた。そういうのが、やっとみたいだった。
俺の家からだと、駅に寄って学校まで行くのは遠回りなんだが。でも、そんなことをいうつもりもなかった。
美里は俺の顔を見ないようにして、
「また、明日」
もう一度そういって、俺に短く手を振った。そのまま駅のほうへ駆けていく。全速力ではないが、かなりのダッシュだった。
そんな風に去って行く彼女に、俺も軽く手を振った。
あれだな、ほふく前進みたいな進展だな。そんなことを思う。それでも、彼女にとっては精一杯なんだろう。
俺は駅に背を向けて歩き出す。
「また、明日な」
そんな風にして、不器用な俺たちの1日は終わろうとしていた。
第四章/ほふく前進
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